日本海の名称について

「日本海」という名称は、日本列島が太平洋を分断することによって成立しているというその海域の性格にぴったりです。そう、日本列島がなければ、そこはただの太平洋で、名前を付けるべき海域は存在しないのです。

にもかかわらず、韓国は、「日本海」という名称は誤っており、「東海」(East Sea) に戻すべきだと主張しています。この East Sea というのは、「東海」(トンへと読む) の英訳です。この海域が、日本から見て東、ロシアからは南に位置するにも関わらず「東海」です。韓国側は、「複数の国が接する海を一国の名前を関して呼ぶのは不当で、そんな呼び方をするのは日本海だけだ」と主張しています。その主張がでたらめであることはすぐにわかります。インド洋、ノルウェー海などが存在し、何よりも日本と韓国の間の海峡が、国際的には Korea Strait と呼ばれているではありませんか。


「東海」という名前が抱える問題の中で、おそらく最大のものは、類似の地名が余りにも多すぎることです。そもそも East Sea とは、韓国語の「東海」(トンへ) を英訳したものですが、韓国はその名前が余りにも自己中心的なのを誤魔化すために、「東海という名前は、ユーラシア大陸の東に位置するという地理的な位置にあっている」と主張しています。しかし、ユーラシア大陸の東に位置する海は、何も日本海だけではなく、他にも東シナ海と南シナ海があり、しかも悪いことにそれぞれを中国とベトナムが「東海」と読んでいます。

中国では東シナ海が「東海」(Pinyin で Dong Hai) と呼ばれています。しかもこの「東海」は IHO の「大洋と海の境界」に、"East China Sea (Tung Hai)" 登録さているのです。

ベトナムの「東海」、南シナ海は、ベトナム語で Bien Dong です。南シナ海の群島の領有権を中国と争っているせいもあってか、ベトナム政府は「南シナ海」という名称を好まず、英語でも Bien Dong の英訳である East Sea を使う傾向にあります。

そして日本です。日本で東海といえば東海地方です。昔は日本の東にある海、つまり太平洋を漠然と「東海」と呼ぶ用法がありましたが廃れています。東海地方が日本海の反対側にあることは絶対に強調しなければなりません。日本の両側が「東海」と呼ばれるなど、日本人には到底受け入れがたいことです。

さてここで、いわゆる「漢字文化圏」というものに触れておかなければなりません。日本の「東海」と韓国のいう「東海」と中国の「東海」は、日本人のように漢字のわかるものには、まったく同じ字であることが一目瞭然ですが、アルファベットにすると、それぞれ Tokai、Dong Hae、Dong Hai となって、似てはいるものの、基本的に同じとは認識されてません。漢字の共通性を強調して、これらがまったく同一であることは特に説明する必要があります。

実は世界で「東海」と呼ばれているのは何も東アジアの海だけではありません。バルト海も、周りを囲む各国の言語では、東海を意味する言葉で呼ばれています。ただしエストニア語では「西海」を意味する言葉で呼ばれています。

このように世界各地のさまざまな地形が「東海」と呼ばれていることを考えれば、韓国のいう「東海」を公式名として採用しては、各国で混乱を招くのは明らかです。日本海以外を「東海」と呼ぶ各国の人口を単純に足し合わせてみれば、なんと 16 億にものぼります。(ただしそのほとんどが中国ですが) さらに駄目押しとして翻訳という作業について触れておく必要があります。一旦英語の公式名が決まると、各国の地図製作者はそれを自国語言語に翻訳して使うことになります。例えば Red Sea は日本語では「紅海」で、Sea of Japan は Bien Nhat Ban と翻訳されます。では East Sea という名前が公式名として採用されたらどうなるでしょうか?漢字文化圏では「東海」としか訳しようがないし、例えばドイツ語では Ostzee 以外の訳語は考え付きません。同名衝突を回避することができません。特に深刻なのが日本と中国です。自国の両側や隣り合う海が同じ名前で呼ばれたりしたらたまったものではありません。


上で述べた「東海」の同名衝突は、East Sea を公式名にするのを止めるのに十分なほど深刻なもので、この文章をここで打ち切ってもいいのですが、韓国が日本海の名称の歴史について出鱈目を言っているのを看過できません。

韓国側は、「East Sea という名称は、朝鮮のみならず中国、日本、そして西洋諸国にも広く受け入れられていた」と主張しています。日本人の目には明らかな嘘です。日本が自国から見て西や北に位置する海を「東海」なんて呼ぶわけがないでしょうが。韓国側はさらに続けて「日本海という名称は、日本が 20 世紀になってから不法に East Sea から変えたものだ」と主張しています。しかし、「日本海」という名称は、日本がまだ鎖国していた 19 世紀には既に一般的になっており、ほとんどの西洋の地図に載っています。

韓国は東海を「取り戻す」とか、「東海から日本海に変えられた」と言いますが、実際のところもともと存在しないものは消しようがありません。韓国は西洋の地図に見える Sea of Corea (Korea) や Oriental Sea を East Sea と (意図的に?) 混同しているのです。Sea of Korea と East Sea の共通点なんて、「日本海」ではないというだけです。むしろ西洋の地図では、日本海ではなく東シナ海が Eastern Sea と表記されることが多かったのです。(Sea of Korea と Eastern Sea、どちらの方が East Sea に近いですか?) おまけに韓国側が頼みとする Oriental Sea だって、西洋の古地図をいくつか見れば分かりますが、いつも日本海にあたる部分に記入してあるわけではなく、日本の南の海域に書いてあったり、東シナ海の部分に書いてあったりするのです。

「日本海」の歴史についても見ておくと、実は「日本海」は西洋人が名付けたものです。最初に「日本海」が登場した地図はおそらくマテオ・リッチの「坤與万国全図」(1602) です。明時代の中国でイエズス会の僧が作成したこの地図は、西洋の地理に関する知識を反映した中国最初の地図で、東アジアに与えた影響は大きく、日本や中国では大量の複製が作成されました。

東洋では「坤與万国全図」ですが、西洋に「日本海」の名称を普及させたのは、ロシア提督クルゼンシュテルンの地図だといわれています。彼の著書が出たのは 1815 年で、日本が開国したのが 1854 年です。そもそも日本が名前を変える必要などなかったのです。

最後に西洋ではなく東アジアの地図や文献について触れます。前提として東アジア諸国の当時の人間の地理観を考慮に入れねばなりません。東アジアにはある程度規模の大きな海に地名らしき地名をつける習慣がありませんでした。自国から見た方角や対岸の地名をつけて漠然と呼ぶにとどまりました。先ほど述べたように日本人は太平洋を漠然と東海と呼んでいたし、日本海は「北ツ海」と呼ばれていました。その他にも「渤海」や「朝鮮海」と呼ぶこともありました。同様に朝鮮では古来半島を囲む三法の海を漠然と「東海」「西海」「南海」と呼んでいました。日本人がアメリカ西海岸まで達する海と認識して太平洋を「東海」と呼んだのではないように、朝鮮人も日本の沿岸まで達する閉鎖水域を認識して「東海」と呼んだわけではなく、とても地名とは言いがたい名前です。

Sea of Japan という名称は、IHO が 1921 年の発足してから、他の多くの海の名前と同時に公式名となりましたが、こうして東洋人が地名とは言いがたい呼び方を使いつづけていた以上、西洋人がつけた名前が公式名として採用されたのは仕方がないことであります。今更朝鮮人の地理的無知を反映した「東海」を公式名に採用しようとするなど、時代錯誤も甚だしいのです。

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